嵐のあと

1987年10月15日。当時のBBCのお天気おじさん、マイケル・フィッシュが午後1時のテレビ天気予報に登場。「ハリケーンが来るっていうが、本当か、と先ほどBBCに電話をかけた女性がいましたが、もし見ていたら、心配しないように。ハリケーンは来ませんから。強風とはなりますが、その経路は主にスペイン方面です。」

この夜、イギリスにやってきたのが、1987年のグレート・ストームと呼ばれる大嵐。死者18人、風速は115マイルまで達し、木々はなぎ倒され、イギリス各地は大被害。嵐の後、各メディアは、気象庁が、的確な警報を出さなかったと非難をはじめ、哀れ、マイケル・フィッシュ氏は、グレート・ストームを予測できなかったお天気おじさんとして、イギリスの社会史に名を残す事となります。彼が「心配しないで・・・(ドント・ウォーリー)」と呼びかける、天気予報のビデオは、その後も、事あるごとに、何度も何度も流されることとなり、なんと去年のロンドン・オリンピックのオープニング・セレモニーでも、このビデオが登場していました。

そんな苦い経験もあってか、昨日は、かなり早くから、「日曜の夜と月曜の朝にかけて、25年ぶりの大嵐となる恐れがあります」と報道が繰り返され、運転を控える鉄道路線も多かったのです。朝起きてみると、風は嵐という感じとは程遠く、経路はずれたかな、と、ラジオのスイッチを入れました。「こんな大した事のない強風に、大騒ぎするなんて」という批判のメールやらテキストやらがBBCのスタジオへ多く送られてきているとアナウンサーが言っているのを聞き、「嵐が来ないから大丈夫」というと非難ごうごう、「嵐がくるぞー」と言ったら非難ごうごう、気象庁も気の毒に・・・と紅茶をすすりながらボーっと思っているうちに、7時を回り、「え、なんだか、風が強くなってきたぞ・・・」そして、その後約2時間、しばらくぶりに見る強い嵐が吹き抜けていったのです。2階の窓から、隣の家の塀が倒れるのを見、庭の木が、地面と平行になる感じでなびくのを見。

嵐がいくらか静まった9時に、空は快晴。ちょっと外がどんな様子か見て来ようと、出かけてみる事に。とにかくなぎ倒された木が多かったのには、びっくりしました。あんな短い時間で。

上の写真の木は、本当に根こそぎ、という感じで、最近雨が多く地面が湿っていたのも手伝ってか、脇に埋まっていたケーブルもむき出し。こんなのが、脇を歩いている時に倒れてきたら、ひとたまりもないでしょうね。そばを通る人たちは、皆、写真をとっていた上、片側の道路を通り過ぎる車も一時止まって、写真をぱちり。そばにいたおじさんが、「朝、電車に乗ろうと駅に向かった時は、まだこの木立ってたんだよ。電車が動いてないから家に一度もどって、今、また駅に行く途中だけど、そしたらこれだもんね。」「電車まだ動いてないんじゃないですか?」「まあ、そしたら、もう今日はロンドン出るのはあきらめだね。」そして、また別のおじさんが、「さっき、この向かいの家の女性と話したんだけど、彼女は、この木が植えられた時の事を覚えてるって。それで、今朝、これが倒れるのも目撃したそうだよ。」私は、こんなでかい木、かなり年代ものではないのかな、その女性、いったい何歳なんだろう、などとちょっと疑問もありましたが、早く成長する木なのかもしれないし。

人間、根本的に皆、物見高いのです。そして、こういう変わった事件があると、結構人は、舌が軽くなるもので、他人でも、道端で話しかけてくる人が多いのです。「アイスランド(スーパーの名前)の前の木も倒れてたよ、あと、警察の前のやつも。」なんて情報を流してくれる人もおり。

いつも駅にむかうのに使う小道は、警察のテープで塞がれてしまっていました。なぜかと良く見ると、道の途中の橋の手前で、木だけでなく、

電柱も倒れていました・・・。

小川沿いの散歩道も、被害を受けた木は多く。古い教会が良く見えるようになったのは、利点と言えば、利点ではあるとも言えましょうが。

ついでに買い物を済ませて、我が家のある通りへ戻ると、ちょうど通りの奥の家に住んでいる男性が繰り出していくのに出くわし、「あまりある事じゃないから、ちょっと様子を見に行こうと思って。」なんて、本当に、みんな、思うことは同じで、にんまりしてしまいました。

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