クリスマス・クラッカーの歴史

クラッカー(cracker)という英語には、食べるクラッカーの意味のほかに、火薬、爆竹の意味があります。イギリスで、クリスマス・クラッカーと呼ばれるものは、クリスマス時期に、ぼりぼり食べるクラッカーではなく、紙で巻いた大型キャンディーのような形をし、中に摩擦で音がでるように、火薬をまぶした細長のひも状の紙が仕込んであるるものです。クリスマス・クラッカーを、2人で、片側ずつひっぱって破ると、バチーンと音がし、中からでてくるのは大体、紙テープや、どうしょうもないおもちゃ(プラスチックのこま、紙で出来た王様のかんむりなどなど)と、これまたどうしょうもないジョークが書かれた紙などが出てきます。

パブなどでクリスマス・パーティーなどをすると、用意されたテーブル上に、ちょこんと、このクリスマス・クラッカーが載っているのが常。隣の席の人と、両端を引き合って、クラッカーを鳴らそうとするのはいいけれど、これが、一発でパーンと爽快な音で開く事はまずなく、何回も引っ張って、やっと・・・ということが多いのです。去年の売れ残りのクラッカーを大量に安く買って使っているから、火薬がしけてしまっているんじゃないか・・・などと疑ってみたりして。

無駄使いと感じるため、自宅で使うためにクリスマス・クラッカーを買ったことは一度もありません。ちなみに、上の写真のクリスマス・クラッカーは、フォートナム&メイソン社で販売しているもの。6個入りでお値段なんと、250ポンド。ぎょぎょ!普通のクラッカーより大型で、中には、紙の冠やジョークを書いた紙の他に、わりと高級なプレゼント(手作りローズ石鹸など)が入っているので、このお値段なのです。ロンドンの金持ちのクリスマスパーティーでは、こんなクラッカー使うのですかね。普通のものは、おそらく、この50分の1くらいの値段でしょう。これだけの高級クラッカーだったら、景気良い音を立てて鳴ってくれないと。

クリスマス・クラッカーは、19世紀の御菓子業者トム・スミスの考案から始まったものだという記事を先日雑誌で読みました。1840年に、パリを訪れたトム・スミスは、パリの菓子屋で、アーモンドを砂糖でコーティングしたお菓子が、それぞれひとつずつ、綺麗にティシュに包まれて売られているのを目撃して、いたく感動。ロンドンへ戻るや、同じように、ひとつずつを紙で包んだボンボンを売り始めます。トム・スミスの、包み紙に入ったボンボンは、まずまずの売り上げではあったものの、大成功とはいかず、氏は、常に、何とか売り上げをもっと伸ばす方法はないものかと、考えておりました。とある冬の夜・・・自分の暖炉の前に座って、薪が燃えるのを眺めている時、薪がぱちん、ぱちんとはじける音に、インスピレーションがびびっときたのです。包み紙の中に、摩擦で音を立てる火薬を仕込んだ別の紙をいれ、ボンボンの包み紙を開けるたびに、パチンと音がするようにしたらどうかと。更に、包み紙の中には、詩や名言を綴った紙片も入れ。こうして、最初はボンボンが中に入っていたクラッカーですが、やがて、トム・スミスの子供たちの時代には、クラッカーをボンボンから独立させたものとして売り始めるのです。

クリスマス・クラッカーと同時期の1840年代に遡り、今も続くクリスマスの風習に、ヘンリー・コールが始めたクリスマス・カードがありますが、これは、以前に書いたものをご参照ください。こちら

クラッカーという言葉は、また、イギリス内では、「目を引くようなすばらしい物、人」の意味に使われる事もあります。

She is a cracker.
彼女、魅力的だな。

That musical was a cracker.
あのミュージカルはすごく良かった。

尚、私の辞書によると、アメリカでは、人を指してクラッカーと言うと、南部の白人の貧民を意味する事があるそうなので、注意しましょう。

これがまた、クラッカーズと後ろに「s」がつくと、当然、クラッカーの複数形であると共に、「気が狂った」の形容詞ともなります。

He went crakers.
彼、気が変になった。

そして、クラッキング(cracking)という形容詞も、やはり、「目を引くほどすばらしい」の意で使われます。火薬や爆竹が、華やかにぱちぱちとなる様子からきたのでしょう。「ウォレスとグルミット」のウォレスは、食べるクラッカーにチーズをのせた物が好物のせいか、この「クラッキング」という言葉を、時折、口にしています。

ボンボンの包み紙の中に火薬を仕込むなんて、

What a cracking idea !
なんて、すばらしいアイデア!

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